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finalが注目する「音色」って何!? 「自分ダミーヘッドサービス」にはどのように応用されているのか<第2部>

今回は【音色】についての話題です。耳にしたことはあるかと思いますが、「実際何なの?」と聞かれると、うまく説明するのは難しい概念です。実は音色はfinal独自の自分ダミーヘッドサービスの核となっているとても大切な要素なのです。この記事では、音色の基礎的な知識から、自分ダミーヘッドサービスにどのように応用しているかを2部構成でまとめました。

キーワード:音色、自分ダミーヘッドサービス、聴覚

執筆者紹介
finalで広報・PRを担当。新聞社・テレビ局で通算約10年の記者生活を経て、ZE8000の出会いをきっかけにfinalの門を叩く。

finalと音色

finalは今回、【音色】にフォーカスした独自の個人最適化サービス「自分ダミーヘッドサービス」をリリースしました。これまでも【音色】にフォーカスした研究や製品を中心にリリースしてきたのか?と問われると実は違います。

finalのチーフサイエンティストの濱﨑は空間音響の専門家でもあり、学会では聴覚における音の3要素を拡張し、聴覚におけるの4要素として「音の大きさ、音の高さ、音色、音の空間印象」とすべきだと提言して来ました。

さらに、昨年は音像定位の再現性の向上」に特化した音響設計を行なっているVRシリーズの新製品(VR2000VR500)を続けて発表するなど、「空間印象の再現」は、力を入れている分野であることは明らかです。このほかにも、オーディオ業界全体では空間印象に着目した製品が数多く売り出されています。(音色にフォーカスした個人適応サービスというものは、私たちが調べ尽くした限りではどうやら初めてのようです)

「自分ダミーヘッドサービス」概要

自分ダミーヘッドサービスは、綿密な計測ポイントから上半身の形状を3Dスキャンし、その方だけの「自分ダミーヘッド」を形成します。その後、finalが独自に開発したヴァーチャル音環境へ投入することで得られたデータから一人一人に合わせた音のアラインメントをワイヤレスイヤホン「ZE8000」に施すことで、「8K SOUND」が個人に合わせて最大限に引き出されます。自分ダミーヘッドサービスは、音色の向上に特化する他に類を見ないサービスとなっています。

「8K SOUND」とは

8Kとは次世代映像規格の名称です。8Kの映像は人物の肌の質感まで見えるほどの高精細な情報を映し出します。従来の規格では輪郭を強調させるといった処理により高精細に感じさせる演出がされていましたが、8K映像では現行地上波放送で採用されているハイビジョン映像(2K)の6倍にもなる高画素数による圧倒的な情報量で映像のクオリティを上げ、私たちが普段自分の目で見る視覚印象に近い映像再現を可能にしています。

音質チューニングも同様で、高域を強調して解像感を演出する、或いは低域を強調することで迫力を出すといった手法が一般的でした。しかし8K SOUNDは、音の情報量を徹底的に高めることで、本来の音の質感をそのまま感じとることができます。この新しいサウンドは誰もが体感できる新しい音楽体験です。ただし、初めて体験した時には順応が必要な場合があります。8K映像を初めて見たときと同様で、全てが高精細であると、どこを注視して良いかわからない感覚におちいるのです。どこかにフォーカスがあっており、それ以外が背景的になっている映像(音)の方が注視すべきところが明確でわかりやすいからかもしれません。

しかし、何らかの楽器や声にフォーカスを合わせていくと、これまで強調感に隠れて感じられなかった繊細な音をしっかりと聴き取ることができ、いつも聴く曲の中から初めて気がつく音を感じることができます。どこかの音域に強調感を持たせた際にも同様の感覚を持つことはありますが、それが自分がフォーカスした全帯域に渡って感じられるという、今までのイヤホン・ヘッドホンでは達成できなかった全く新しい音楽体験です。

【イメージ画像】左:従来の映像、右:8K映像

なぜ「音色にフォーカス」なのか

「なぜ、このタイミングで音色なのか?」と思った方が大半かと思います。それは、音色が「音の高さ」、「音の大きさ」、「音の方向」を除く、音を聞いた時に感じるその他すべての印象の源だから、ということに尽きます。

また、一部には空間印象にフォーカスした製品やコンテンツなども出てくるようになりましたが、市場にはまだまだ圧倒的に2chステレオ録音制作方式の音楽やコンテンツが多いのが現状です。finalでは、お客様の環境を考慮すると音色にフォーカスしたサービスを提供することが、より音楽やコンテンツを楽しめる環境づくりに繋がるのではないかと考え、これまで培ってきた音楽コンテンツの再生における聴覚の研究をもとに、今回の「自分ダミーヘッドサービス」を実施することにしました。

ただ、非常に壮大で漠然とした【音色】という概念をどのように定義するかは難儀中の難儀な話です。このため、finalでは、独自に物理と数学の考えを応用して音色という概念をデータとして導き出し、 ZE8000の中に適応させることに成功しました。下記で詳細に説明します。

自分ダミーヘッドサービスの概念

前回の猫とチーターの例でも申し上げたように、人間にはふたつの重要な聴覚事象である「音の方向知覚」「音色認識」が備わっており、私たちがイヤホンで音楽を聴く際には各楽器やボーカルの音の位置とともに、各楽器やボーカルの音そのものを楽しんでいます。
自分ダミーヘッドサービスでは、final独自のヴァーチャル音環境に身体形状計測に基いて作成された「自分ダミーヘッド」と呼んでいるモデルを投入することで「音の方向知覚」と「音色認識」を検証します。

この図は、ドイツの音響研究者であるGünther Theileが1986年にAESジャーナルに発表した論文に掲載された図を分かりやすく説明したものです。 鼓膜に到来する音をどのように物理的かつ聴覚心理的に処理しているかを示しているモデルです。 ここで重要なことは、空間聴取とゲシュタルト認識が別のステージで処理されているということです。 ゲシュタルト認識は、ゲシュタルト即ち形態を認識するという心理学的概念であり、音楽聴取における各楽器やボーカルの音、 即ち音色を認識することと理解することができます。

Günther Theileが示したモデルをベースにすると音の方向知覚と音色を独立して扱うことができるようになります。 今回、finalが発表した自分ダミーヘッドサービスは、音の方向知覚ではなく、音色の認識の質の向上を目指したものです。 先ほどご紹介したヴァーチャル音環境に投入した自分ダミーヘッドから得られた音響物理特徴量をGünther Theileが示したモデルの概念に基づく音色認識向上に利用しています。 その結果、楽器やボーカルの音色が向上し、かつ、楽器やボーカル間のバランスも向上させることができるようになりました。

ちょっと(かなり?)難しい説明になりましたが、科学技術論文を発表する関係もあり、また説明が可能な時期になりましたら改めて詳しくかつ分かりやすく解き明かしていきたいと思います。

自分ダミーヘッドサービスって実際どうなの?

ところで、自分ダミーヘッドサービスって実際どうなの?というところが正直気になるところかと思います。だって、サービス自体のお値段がZE8000本体(29,800円/final公式ストア価格)よりお高い55,000円ですから。

正直に申し上げます。

私、ZE8000(自分ダミーヘッド適用済モデル)が手放せなくなりました。

JDH=自分ダミーヘッドの略です

また、 ZE8000は昨年MK2をリリースしたばかりなので、こちらとの比較も気になるところかと思います。メディア取材の際にも、実際にZE8000 MK2と自分ダミーヘッドサービスを施したZE8000初期モデルとどちらが良いの?」という質問をいただくことがあります。
(「良い」という意味がどこまでを指すのかにもよりますが)正直なところ、「自分ダミーヘッド適用済みモデルのZE8000が良いと言えるのは間違いないです」というのが現段階でのお答えになるかと思います。

自分ダミーヘッドサービスで得られたデータを ZE8000に反映することで、今まで何百回と聴いた音楽やコンテンツでさえ、「こんなにも違った表情を見せるのか」「このシーンでハイハットが絶妙な余韻を引き出している」などといった新たな発見があり、これまで以上に何時間でも聴き込んでいられる(聴き込んでしまう)心地よさが生まれます。このような体験は現在のところ、自分ダミーヘッドサービスのみでしかできません。
これまでのワイヤレスイヤホンの在り方を覆し、音色の最適化が聴覚に与える影響の大きさを実感できるという意味では上記のような回答をさせていだたいております。

※ここで誤解をしていただきたくないのは、ZE8000 MK2は初期モデルとは違ったアプローチの製品であり、上記の回答によって自分ダミーヘッドサービスをご利用されていない方・そして ZE8000 MK2をご使用されている方を否定するということではないということです。自分ダミーヘッドサービスという個人性適用を施したZE8000初期モデルは、新たな視点で音楽やコンテンツの楽しみ方を提案してくれます。そのような説明も交えながら、メディアの方々には回答をしております。

耳介及び外耳道入り口付近の3Dスキャンの様子

ここからは自分ダミーヘッドサービス体験の個人的な感想ですが、まずは音楽やコンテンツの鮮明度が明らかに変わり、より詳細に、音がクリアに聞こえるようになりました。

例えば、パーカッションで使うスレイベル(鈴がついた打楽器)に関しては、自分ダミーヘッドサービス体験前は「シャンという鈴の微かな音だなあ」くらいにしか思っていなかったのですが、体験後は「このスレイベル、こんなにも曲を味わい深く引き立てていたのか!」と聴くたびにはっとさせられています。

また、ホールでのコンサート音源を聴く際には、ボーカルが少し遠いなと思っていた曲でも「あ、こんなにも近くで歌っていたんだ」というくらいはっきりと認識できるようになりました。例えるならば、ボーカルの方の唇の動き一つ一つまでがまるで見ているかのように、目の前で歌われているかのような鮮明さを感じてしまうのです。

さらに、私は昔から打楽器に関心があるようで、特にドラムの中でも「バスドラム」が刻む低音のビートが好きなのですが、自分ダミーヘッドサービスを体験してからは特にビートの低音がより際立っているように聴こえます。さらには、ロックの曲を聴くとツインペダルがバスドラムのヘッド(打面)に当たる際の感触まで伝わってきたり…と、ドラムにフォーカスして音楽を楽しむ私にとっては、身震いするほどの新鮮な感覚を日々飽きることなく味わっております。

そして、良い意味で自然な音なので気づくとフル充電のZE8000を切れるまで装着していた…なんて日も珍しくありません。もちろん音圧には気をつけています。

今後の展望

上半身3Dスキャンの様子

現在はZE8000初期モデルのみのサービスの提供ですが、近い将来はZE8000 MK2に対しても自分ダミーヘッドサービスを提供していきたいと考えております。

また、現在はユーザーの方にfinal本社にお越しいただいて上半身のデータを計測しておりますが、後々はご自宅などでお客様ご自身で計測ができるようなサービスをご提供できたらと考えております。
とはいえ、自分ダミーヘッドサービスを開発している技術チームからは「そんなに簡単に言わないで!」と念を押されています。詳しくは発表できる時期がきたらお知らせしたいと考えていますが、いくつもの困難な技術課題をクリアする必要があるそうです。

まだまだ始まったばかりのサービスですが、finalの挑戦にどうぞご期待ください!

自分ダミーヘッドサービスについての詳細はこちらをご覧ください


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