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【開発秘話】A series「A6000」 新たな挑戦を取り入れた新モデルイヤホン

本日11月14日(木)よりA seriesの新モデル「A6000」が発売となりました。耳につけた瞬間、ライブステージと歌い手が現れ、あたかも目の前で歌い出したかのようなリアルさ、そして一つひとつの音が繊細なまでに感じられる、曲そのものの魅力を引き出してくれるイヤホンが誕生しました。
開発担当の小原にインタビューを試みたところ、A6000の開発秘話はもちろん、A seriesにまつわるネタも聞ける聞き手としてはとてもありがたい機会に恵まれました。
このため、今回はA6000を軸としながらも、A seriesを広く紐解いていく回とさせていただきたいと思います。

キーワード:トランスペアレント、金属フレーム、自社開発ドライバー、ベリリウム、単結晶銅

小原 雄哉
A6000開発プロジェクト担当エンジニア。
フラッグシップ完全ワイヤレスイヤホンZE8000のほか、A5000やVR2000 for Gamingなどの設計開発も担当。
final入社前は家電製品や眼鏡の設計開発に広く携わる。また、単身ドイツに渡り、語学を学びながら、自身でデザインした眼鏡を売り歩いたユニークな経験を持つ。

A6000の開発を担当したエンジニアの小原

A series待望の新モデル

Q.A6000がついに発売を迎えました。まずは、A6000の特長を教えてもらえますか。

小原:A6000には、自社開発ドライバーユニット「f-Core DU」(エフコアDU)を搭載しています。振動板、ボイスコイル、磁石、磁気回路、各部接着剤などのドライバー部品、さらには生産機器までも自社で設計した、完全新設計の6mmφダイナミックドライバーユニットです。

ドライバーフロントハウジングの素材には、一般的なアルミニウムよりも磁力の影響を受けにくく、比重の高い真鍮を使用しています。振動板の時間応答性能を高めるために、ボイスコイルには30μの超極細CCAWを使用し、最小限の接着剤で組み立てることで可動部を徹底的に軽量化しています。

A seriesの新モデル「A6000」。6000番台は初のリリース

また、「f-Core DU」を保持するためのステンレスマウントフレームを新開発して、内部の金属フレームによって筐体の剛性を高め、ドライバーを強固に支えています。このおかげで、軽量な樹脂筐体の快適な装着性を実現しながら、音の粒度が極めて細かく、一音一音の輪郭が鮮明に感じられる音質の両立が可能になりました

さらに、樹脂筐体の表面には、独自の「ハードグレイン加工」を施しています。グレインとは「粒子」という意味で、筐体の表面に細やかな陰影を与え、剛性を高めるとともにキズや指紋汚れを防いでくれます。A5000に施してあるシボ塗装とはまた一味違うマットな感じが、筐体の高級感をさらに引き出してくれます。
目を凝らすと細かい凹凸がマットな質感を生み出し、指の腹でなぞると心地よい触感も実現しています。色、粒立ち具合、質感…と、全てにこだわって試作を繰り返して完成したfinal独自の塗装技術です。

付属ケーブルは「2PINソフト単結晶銅ケーブル」を新しく開発しました。優れた導電性を持つ単結晶銅を採用していて、取り回しの良い柔らかさも手に馴染みます。高い解像度と柔らかい質感を両立したサウンドを実現しました。

A6000で初めて採用したfinal独自の塗装技術「ハードグレイン加工


Q.おお、すでに随所にこだわりを感じます。今回は、新しいモデルですけど特にここは!というポイントがあれば詳細に教えてください。

小原:A6000に搭載しているドライバーを保持するためのステンレスマウントフレームはA8000の設計を受け継いだ部分です。この設計がSN比*の向上にも大きくつながっています。

A8000はドライバーが筐体にダイレクトにマウントされており、不要な振動が抑えられ音の輪郭が明瞭になる設計となっています。実は、こうした構造も「トランスペアレントな音」を生み出す要因の一つになっているわけです。

A seriesはモデルごとに差異はあるにしろ、「トランスペアレントな音」を基にして生まれたシリーズです。A6000に関しては、A8000と同じ方向の「トランスペアレントな音」を目指して開発を進めてきたわけですけれども、A6000ならではの音が生まれるような挑戦もしてきました。

A8000の筐体設計から発想を得た「ステンレスマウントフレーム」

今回、finalでは初めて採用する単結晶銅という素材を使って新しく設計した2PINソフトケーブルが標準装備でついてきます
抵抗のロスが少なく、クリアでノイズのないスッキリとした音でありながら、力強さも感じられる音質の一助になります。このケーブルも、A6000らしい音を作ってくれています。

優れた導電性を持つ単結晶銅を採用した2PINケーブル

A6000がA8000の後継機なのか?

Q.A6000はA8000を彷彿とさせる設計も取り入れていますね。A8000が終売したタイミングもあり、事実上の後継機ということになるのでしょうか?

小原:実は、A8000の終売のタイミングは世界情勢の関係もあり、finalとしては「予期せぬ終売」となってしまいました。本来であれば、息長く生産を続ける予定で準備をしていました。

A8000には、極めて軽量で音速が速い理想の振動板材料とも言われる極薄ベリリウム箔(トゥルーベリリウム)を成形した振動板を採用していました。商品ページにも書いてあるとおり、トゥルーベリリウムを採用したことによって時間応答の改善につながりトランスペアレントな音を作り出すことができます。
音の立ち上がりの鋭さに加えて、消えてゆく音の余韻が明確に感じられ、音と音との間の静けさも感じられるようになります。A8000には欠かすことのできない素材だったわけです。

今年8月に終売が決定したフラッグシップイヤホンA8000

また、ベリリウムは軽量でありながら非常に強度が高く、耐熱性などにも優れていることからミサイルや航空機などの構造部品、さらにX線の透過性に優れているため医療機器の部品にも用いられます。

記憶にも新しいですが、ロシアとウクライナの戦争が始まってから、ベリリウムが全く手に入らなくなりました。取り扱い先に問い合わせても、いつ入荷するかわからないという返答が1年以上続いており、もちろん先行きも不透明でした。そうしているうちに、在庫も底がついて生産継続が困難となってしまい、終売にせざるをえなかったというわけです。

A6000の開発はA8000の終売に合わせて行なっていたわけではなく、独自のプロジェクトとして進んでいました。たまたま、皆様にお披露目する時期と終売のタイミングが重なってしまったというのが実情です。

我々としても思わぬ形でフラッグシップイヤホンの存在を失ってしまったわけです。何もないままも寂しい…と言うことで、実は、A8000に代わる新しいフラッグシップイヤホンの開発に着手しています。
発表できるタイミングになったら、改めて詳細をお伝えしたいと思いますが、ぜひ楽しみにしていただけたら幸いです。

Q.A8000の終売秘話、そしてまさかの新製品予告まで…。なんとも、ボリューミーなインタビューになってまいりました。

小原:新製品のところは社長がOKと言ったら書いてくださいね(笑)
※無事、社長からOKでました

A8000には極薄ベリリウム箔(トゥルーベリリウム)整形した振動板が採用されていた

ラッパとイヤピと私

Q :小原さん、ずっと気になっていたのでもう触れていいでしょうか。この、小さな「ラッパ」のような部品は何でしょうか?

筐体内にある金色のラッパのような部品

小原:これですね、小さいながらいい役割をしてくれるんですよ。ドライバー背面につける部品なんですけど、周波数特性をより精密に制御するために欠かせないものなんです。

このラッパみたいな部分は真鍮でできているんですけど、フィルターだけではやりきれない周波数特性のチューニングまで行なってくれるんです。この部品があることで、空気の質量を利用してより狙った特性にドンピシャで近づけることができるんですよ。

Q.そんな部品が筐体内に隠れていたとは…。あと、気になる繋がりでもう1点いいでしょうか。A6000は有線イヤホンなのに、付属品は「​​TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」ですよね。

小原:そうなんです、あえて軸の短い「​​TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」でお楽しみいただきたい製品なんです。A6000に関しては、耳穴の入り口付近で大きめのイヤーピースをつけることによって、高域の特性が変わり、狙った音質に近づくことがわかりました。
このため、「​​TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」を使用していただくことはA6000の音質の面からも良いということになり、付属品にしてもらったのです。

A6000の付属品は「TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」を採用している

また、A seriesなどで採用している筐体形状にも関係しています。この独特の形状は耳道(イヤーピース)・耳珠・耳ポケットの3点で保持することで安定した装着感を得られるこだわりの設計なんです。

A6000は耳道(イヤーピース)・耳珠・耳ポケットで保持することで安定した装着感を得られる

ただ、一部のお客様からは「うまく装着できない」というお話しをいただくケースもあります。
実は、私自身も耳道が上向きのためか、軸の長い「イヤホン用イヤーピース TYPE E」が付属のA5000を装着した場合、イヤーピースと耳珠の2点で筐体を支えているような状況になってしまいます。また、耳ポケットの部分が浮いてしまうので密閉が取れず、イヤーピースのサイズをSSにして装着し、耳道の深いところで密閉を取るようにしています。

A6000の場合、同梱の「TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」は軸が短いショートタイプのイヤーピースなので、耳道の深い部分よりも浅い耳穴の入り口付近で安定します。さらに、通常使用しているイヤーピースよりワンサイズ大きいものを使用することでよりストレスのない装着が可能になります。
私の場合は、ワンサイズよりもさらに大きいLLサイズを装着するのですが、耳ポケットでもしっかり密閉が取れる位置で筐体が保持できています。

「イヤホン用イヤーピース TYPE E」付属のA5000を装着。 小原の場合、耳道が上向きのためちょうどいい位置に合わせると耳ポケットから筐体が浮いてしまう
「TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」が付属したA6000を装着。 イヤーピースのサイズを大きめのものにしたことで、装着感も安定し、耳ポケット部分の密閉もきちんと取れるようになった

もし、A seriesをお使いになったことがある方で、「筐体の形状が合わず、うまく装着できなかった」という経験がある方は、ぜひ「TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」を組み合わせて試していただきたいです。
もしくは、まもなく発売となるトリプルハイブリッド構造の次世代イヤーピース「FUSION-G」も軸の短いショートタイプですので、気になる方はこちらもお試しいただければと思います。

Q.左右でイヤーピースの大きさが違うということはよくありますが、筐体の形状やイヤーピースの軸の長さによっても大きさを変えて、より自身に合った装着位置が見つかるというケースがあるんですね。

小原:音質のために模索していたことが、装着の改善にもつながったのは私自身にとっては思わぬ発見でした。
ただ、A6000の場合は「TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」を装着することで狙った特性に近づくのですが、他のモデルの場合、多少特性が変化することがありますので、その点はご了承いただいたうえでお試しいただければと思います。

Q.A6000を初めて聴いた時、曲を選ばない再現性の高さといいますか、ある意味で万能感に溢れているイヤホンだなと聴いていて耳が幸せになりました。それでは、最後にA6000について一言お願いできますでしょうか。

小原:全体的にクリアかつ一音一音の輪郭が鮮明に感じられる音質は、まずはご自身のお気に入りの曲で試していただきたいですね。
A6000は、新しい挑戦を詰め込んだ聴き応えのあるイヤホンでもありますので、ぜひ他のA seriesのモデルとの違いも感じながら聴いていただければと思います。

次回予告

ここまでご覧いただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。


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