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finalが注目する「音色」って何!? 「自分ダミーヘッドサービス」にはどのように応用されているのか<第1部>

今回は【音色】についての話題です。耳にしたことはあるかと思いますが、「実際何なの?」と聞かれると、うまく説明するのは難しい概念です。実は音色はfinal独自の自分ダミーヘッドサービスの核となっているとても大切な要素なのです。この記事では、音色の基礎的な知識から、自分ダミーヘッドサービスにどのように応用しているかを2部構成でまとめました。

キーワード:音色、自分ダミーヘッドサービス、聴覚の3要素、聴覚

執筆者紹介
finalで広報・PRを担当。新聞社・テレビ局で通算約10年の記者生活を経て、ZE8000の出会いをきっかけにfinalの門を叩く。


人間が発達させた聴覚特性

突然ですが、こちらにネコとチーターの画像があります。想像してみましょう。周辺は草木が生い茂り、視界が悪い場所を歩いています。

「カサカサッ…!」

あなたに向かって何かが近づく気配と微かな足音。それが可愛らしいネコによる足音なのか。もしくは自分を食べようと狙って近寄ってきたチーターのものなのか−。
今では考えられない、昔々のサバイバルな自然界を生き延びるために、人間は聴覚を発達させ、ある役割を持たせました。

まずひとつめが「音の方向を知る」ことで、【音の方向知覚】と呼ばれる聴覚の現象です。ふたつめは「音を発している対象物(オブジェクト)が何であるかを音で認識する」ことです。これは「ゲシュタルト認識」などと呼ばれ、それに関連した聴覚の用語が【音色】に当たります。

音の方向知覚は、動物としてのヒトが自分の身を危険から守るために極めて大事な機能です。視覚が前方の限られた範囲である「視野」にしか働かず、視野以外に存在する対象物を知るためには聴覚に頼らざるを得ないからです。

後者の音色は、教科書や専門書等で聴覚の3要素と説明されている「音の大きさ」「音の高さ」「音色」のひとつでもあります。音色によるゲシュタルト認識は、例えば弦楽器の種類である、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの違いを音だけから認識できることなどが例として挙げられます*。

*…こちらについては、finalの公式noteエンジニアが解説! ゲーミングイヤホンに投入した音響技術にも詳しく書かれています。

現代に話を戻してみると、道路を歩いていて後ろから近づいてくるのが、車なのか、バイクなのか、自転車なのか、エンジン音やタイヤのブレーキ音などで判断できますね。(車に詳しい方だとエンジンの音で車種の見当もつくのだとか!)

学術的にも定義が曖昧 でも役割重大な【音色】

先述した通り、聴覚の3つの要素は以下の通りです。

①音の大きさ(loudness)
②音の高さ(pitch)
③音色(timbre) 

もう少し詳細に書きます。

【音の大きさ】
音の大きさは、例えばテレビの音が大きいあるいは小さいなどと感じる聴覚の現象で、心理的な量です。これに関連した音の物理量としては、音の強さやスペクトルなどがあります。
音の強さは、音場(音が聞こえる空間)内のある1点において、単位面積を単位時間に通過する音響エネルギーです。音の強さが大きくなると、私たちが感じる音の大きさも大きくなります。
空気などの媒質中を伝搬する音波によって生じる媒質内圧力の変化分を「音圧」といいます。スピーカーやヘッドホンなどの測定で用いられる物理量はこの音圧の方が一般的です。音圧と音の大きさの関係は、耳に到来する音波による音圧が大きくなれば、それに応じて私たちが感じる音の大きさも大きくなると理解することもできます。

【音の高さ】
音の高さは、例えば音楽における音階(ドレミファソラシド)の変化に応じて音が高くなったあるいは低くなったと感じるといった聴覚の現象で、心理的な量です。
これに関連した音の物理量が周波数です。周波数とは、音波によって空気分子が1秒間に振動する回数で、単位はHz(ヘルツ)です。1秒間に1回振動することを1Hzといい、周波数が大きいほど私たちは音を高く感じ、周波数が小さいほど音を低く感じます。

【音色】
音色によって人は音源の違い(例:ボーカルの性別など)などを認識できます。その音源の種類を表す単語(例:女声/男声)が共通に使用されていれば、他の人と共通の認識を得ることができます。
一方、音によって起こる印象の多くは、例えば音が明るい/暗いなどのように、「ひとそれぞれに独自の言葉による表現」で表すため、他の人と共感を得ることが難しい場合もあります。音の印象を表す言葉は、明るい/暗い(視覚)、柔らかい/硬い(触覚)など、聴覚以外の人の感覚を表す用語が用いられることが多いようです。

まだ、具体的には分かりづらいですよね。では、さらに具体例を示しながら、「もし、【音色】がこの世からなくなったら」を考えてみましょう。

▼様々な楽器で構成されるオーケストラや楽曲を楽しむことができなくなる
<理由>
映画「ハリーポッター」のテーマ曲「ヘドウィグのテーマ」の冒頭はとても有名なメロディーです。あの独特の不安なイメージを出すために鍵盤打楽器チェレスタが用いられています。金属的かつ柔らかい鉄琴のような音色を持つチェレスタにしか出せない音であり、これをピアノで演奏すると不安感がさほど感じられなくなります。
ドヴォルザーク「交響曲第9番2楽章」のメロディーも有名です。演奏にはコールアングレが用いられています。これをオーボエで演奏すると、あの独特の郷愁感が得られません。
そのほかにも、ムソルグスキー(ラヴェル編曲) 「展覧会の絵」の冒頭のトランペットの独奏によるメロディ、ストラヴィンスキー「春の祭典 」の冒頭のファゴットによる独奏、マーラー「交響曲第1番『巨人』」の3楽章冒頭のコントラバス独奏によるメロディーなど、実例は無数にあります。

つまり、純音(単一周波数のサイン波)を用いて、その音の高さと大きさだけを変化させることだけでも表現できるメロディーに対して、私たちは作曲家が指定した特定の楽器の音色を結び付けて音楽を記憶しています。これが音楽を作曲したり鑑賞したりする上で極めて重要な要素です。音色の存在しない音楽はあまりに無味乾燥で楽しくありません。

ポップスでも、楽曲はそのアーティストの声が持つ独特の音色と結び付けて記憶されています。皆さんがよく聞かれるボーカル曲を思い出せばすぐにボーカルの音色がどれほど大事か理解できると思います。だからこそ、あるアーティストの楽曲を、他のアーティストがカバーして歌うという面白さも生じるわけです。これもアーティスト毎の声の音色の違いを私たちが聞き分けられる恩恵です。

▼言語が使えなくなる
<理由>
私たちは会話する際には、口腔の形状や容積を変化させることによって共鳴する周波数(フォルマント)を時間的に変化させたり、唇や舌使って破裂音(パピプヘポ)や破擦音(タチツテト)を出したりすることで、言語を発音しています。これも音色の時間的な変化を私たちが理解できるから可能な能力と理解することができます。共鳴する周波数(フォルマント)の時間的に変化は、スペクトル*の変化と言い換えることもできます。

*…フーリエ変換を用いて音声の時間波形を周波数成分に分解したものをスペクトル(Spectrum)といいます。

と、【音色】がいかに重要な存在かというのがお分かりいただけたかと思います。音楽だけではなく、私たちが普段使う言語にも大きな影響を与えているんですね。

学術の世界でも【音色】を解き明かそうとする研究はたくさん行なわれたきましたが、まだ解明できていないことが多く残っています。特に、心理現象である音色と音の物理量の関係を解き明かすことは、現在の技術をもってしてでもなかなか難しいようです。後ほど触れますが、この【音色】が担う役割はとても大きく、決して軽視されていいものではないのです。


finalは今回、【音色】にフォーカスした独自の個人最適化サービス「自分ダミーヘッドサービス」をリリースしました。このサービスについて、次回詳しくご紹介します。お楽しみに!


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